デジタルパソロジーとは何か?
デジタルパソロジーとは何か?
デジタルパソロジーは、スライドやデータなどの病理学情報の取得、管理、共有、解釈をデジタル環境に組み込みます。WSI(Whole Slide Imaging:全スライドイメージング)は、スライドガラスをバーチャルスライドスキャナーで撮影して作成され、コンピューター画面やモバイルデバイスで見ることのできる高解像度のデジタル画像を提供します。
ハイスループットの バーチャルスライドスキャナーを用いることにより、顕微鏡に匹敵する倍率で、明視野または蛍光条件下でスライドガラス全体をキャプチャーすることが可能です。特別な デジタルパソロジー用アプリケーションソフトウェアを使用すれば、デジタルスライドをネットワーク上で共有できます。さらには、自動化された画像解析ツールを適用し、組織切片内のバイオマーカー発現強度の判定や定量化をサポートすることもできます。
デジタルパソロジーの歴史は100年以上前に遡ります。特殊な機器が使用され、顕微鏡から写真プレート上に画像がキャプチャーされたのが最初です。テレパソロジー(遠隔地間での顕微鏡画像の転送)の概念は、ほぼ50年前から存在しています。しかし、病理学がアナログから電子環境へと移行し、真のデジタルトランスフォーメーションを遂げ始めたのはこの10年です。
ソフトウェアアプリケーション、LIS / LIMS(検査情報システム)インターフェース、高速ネットワークの進歩に加えて、WSIテクノロジーの急速な進歩により、デジタルパソロジーを病理検査のワークフローに完全に統合することが可能になりました。
デジタルパソロジーにより、病理医は、透明性と一貫性をもって、迅速かつ遠隔で、関与・評価・共同作業を行うことが可能になり、効率と生産性が向上します。デジタルパソロジーの未来は、最終的には、強化されたトランスレーショナルリサーチ、コンピューター支援診断(CAD)、個別化医療をも包含していく可能性があります。
デジタルパソロジーの利点
スライドガラスはなくなりません。それには十分な理由があります。病理検査は採取された組織から始まります。後にデジタルスキャンに移行する場合でも、スライドガラスは必要です。しかし、今日の病理検査は単なる組織やスキャンといったテーマの先を見据え、品質や生産性といったものの改善も求められています。
今日の病理学はどのように変化しているでしょうか:
- 新規に認定資格を取得する病理医よりも、退職する病理医のほうが多く、病理医が不足している
- デジタルテクノロジーの適応が増え、精度管理などの品質が向上し、技術革新がもたらされた
今日の病理検査には新しいアプローチが必要です。そして、病理医がデジタルパソロジーへの適応をためらえば、スライドガラス単体では得られないメリットを逃すことになります。
デジタルパソロジーはスライドガラスだけでは容易に創出できない利益を提供します。顕微鏡だけの場合と比較して、デジタルパソロジーがもたらす多数の利点を見てみましょう。
まず、デジタルパソロジーは有意義な形で品質を向上させることができます:
解析の改善:
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スライド画像解析アルゴリズム は顕微鏡よりも客観的で正確な解析を素早くもたらします
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過去事例に対する迅速なアクセス
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長期的なデータの蓄積によって予測的な解析を可能にします
エラーの削減:
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スライドの破損をなくすことができる
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バーコードが誤認のリスクを軽減します
優れた画像:
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ライブズームや複数アングルでの画像
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複数のAOIを測定することが可能
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スライドに対する注釈が可能
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データと注釈に対するダッシュボードビュー
さらに、デジタルパソロジーの最大の利点の一つは、短期的にも長期的にも生産性を向上させる様々な方法があることです:
ワークフローの改善
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コラボレーションの促進
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データの一元管理により、スリム化されたワークフローで容易にアクセスが可能
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アウトソーシングに向かう傾向を抑制
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自動化、柔軟な作業スケジュール、リモートアクセスが可能
所要時間の短縮:
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アーカイブされたデジタルスライドへの高速アクセス
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データの取得、データの照合、整理にかかる時間の短縮
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特に複雑なケースにおいて手作業の検査と比較した場合の、サンプルへのアクセスの高速化および所用時間の改善
イノベーションの加速:
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ビッグデータが病理医をより専門的に
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訓練をより広い地域に拡張可能
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教育とトレーニングのためのより良いツールを提供
「スライドガラスで十分、診断業務をこなせている」という言い方は、多くの場合、病理医がデジタルソリューションへの投資を正当化できないことを意味しています。しかし、多くの場合、次のようなデジタル化の長期的な費用便益の一部を考慮していません:
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スライドの配送をなくすことができる
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ワークフローがスピードアップ
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相互評価のための出張の削減
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診療対象となる地域が拡張可能になることによる新しいビジネスチャンスの創出
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残業の必要性を低減させる
デジタルパソロジーへの7つのステップ
デジタルパソロジーへの移行の障壁
「顕微鏡には何も問題はありません。」
「われわれの情報システムは他のテクノロジーとは統合しない。」
「今のプロセスを変えるのは難しい。」
これらは、病理医がデジタルパソロジーについて懸念していることの一部です。しかし、病理医たちは、学ぶにつれて、デジタル化への不安が、大きな利益を得るのを妨げていることに気づきます。また、古い手法は今日のデジタルソリューションに太刀打ちできないことも発見するのです。
そして、デジタル手法がスピード、正確さ、効率、および協力を向上させることを、病理医が理解したとしても、その進化は困難に思えるかもしれません。
最も広く採用されているデジタルパソロジーソリューションの業界リーダーとして、私たちは完全に移行することがいかに困難な課題であることを理解しています。
デジタルパソロジーを採用するプロセスは、組織を変革する可能性があります。したがって、その手順と開始方法を理解することが重要です。
ステップ | 主要なアクション |
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1. デジタルパソロジーへの支持を得る |
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2. ニーズと目標を定義する |
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3. ITインフラとLIS(検査情報システム)の要件を確認する |
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4. ワークフローの構築 |
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5. 配置とトレーニング |
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6. ロールアウト |
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7. アプリケーションの分析と拡張 |
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デジタルパソロジーとIHCの今後の動向
大規模なバイオ医薬品会社や一流の臨床研究組織(CRO)は、発見、前臨床、および臨床試験における医薬品開発プロセスを合理化するために、デジタルパソロジーの使用を拡大させています。
新しいコンパニオン診断や新規セラノスティクスの定量分析のためにデジタルパソロジーが今後利用できるようになる特別な機会が来ています。この機会と特に関連する可能性があるものは、多重染色など、人間の目で識別するのが難しいアッセイの出現や、そのうち1つだけが臨床的に重要であるのに、複数の細胞区画に広がる染色特性を示すが、そのうち1つの区画だけが臨床的に重要であるマーカーの出現などです。
このようなアッセイの複雑さの増加は、高度なハイスループット画像キャプチャー(明視野、蛍光またはマルチスペクトル)とパターン認識を組み合わせたデジタルパソロジーソリューションの開発を推進しており、関連する組織タイプと個々の細胞区画を形態学的に特定し、染色の強度を定量可能にします (IHC) 。
これは、サンプル分析出力を臨床データから得た標準曲線と比較することにより、臨床的に関連する診断または予後スコアを提供できるデジタルパソロジーシステムの出現につながります。実際、デジタルパソロジーに関する未開発の可能性の多くは、診断スコアまたは予後スコアを生成する潜在的な能力にある可能性があります。これらのスコアは、臨床的に関連があるグループへの、より個別的な患者の層別化を達成するための努力の一環として、IHCデータと画像をFACSやMALDI-TOFなどの他のモダリティと組み合わせることにより生成されます。IHCを置き換えるのではなく、新しい分子テストとデジタルパソロジーの統合が、将来のための補足的な診断ツールを提供する可能性があります。
デジタルパソロジーはすでに教育分野に革新をもたらしています
教育分野は、デジタルパソロジーの最も初期の採用者の1つであり、学部および大学院の教育から継続的専門能力開発(CPD)および外部品質保証(EQA)まで、組織病理学学習の全範囲で採用されています。
光学顕微鏡とスライドガラスを使用する従来の教育には、スライドやさまざまなコースコンテンツへのアクセスなど、多くの課題がありますが、これらはデジタルパソロジーによって解決することができます。例えば以下のような事例が考えられます。
- コース資料の標準化:デジタルパソロジーでは、各参加者はまったく同じコンテンツを見ることになります。これは、同じ組織ブロックから切り取られた似たスライドとは対照的です。これらは、同じ形態およびバイオマーカーの発現パターンを示す場合と示さない場合があります。コンテンツの標準化により、各参加者に同じ学習機会と教育の質が保証されます。さらに、デジタルパソロジーでは、必要なスライドのデジタルコピーは1つだけなので、コース資料に貴重症例を含めることが容易です。一方、従来の方法では複数のスライドガラスが必要になります。
- アクセシビリティの向上:デジタルパソロジーにより、実験室や従来のチュートリアル時間外でも、組織やスライドベースの資料へのアクセスが容易になります。ユーザーはインターネットを介し、標準Webブラウザーでパソコン、タブレット、またはスマートフォンを使用してデジタルコースコンテンツにアクセスでき、いつでもどこでもスライドを見ることができます。CPDおよびEQAスキームをサポートするためにデジタルパソロジーを使用すると、スライドを1つのサイトから別のサイトに物理的に輸送する必要がなくなり、複数の場所で同時に効率的に共有できるため、回覧の所用時間とコストを削減できます。
- 学習の改善:組織病理学教育の環境を、物理的環境からデジタル環境に移行することで、従来の光学顕微鏡やスライドガラスの教育方法よりも多くの利益が得られます。ユーザーは複数のデジタルスライドを、並べて同時に見ることができるので、さまざまな組織切片や免疫組織化学(IHC)マーカーが比較しやすくなります(図6)。
教育者は重要な関心領域に注釈を付けることができます。これは、細胞および細胞内レベルにまで至り、スライドガラスでは簡単に行えません(図7)。また、特殊なデジタルパソロジー教育ソフトウェアのアプリケーションを使用すると、質問とチュートリアルをデジタルスライドに埋め込むことができ、文脈情報や、質問で言及されている組織または細胞の特性への直接リンクを提供することができます。
この記事の原文は こちら
About the presenters
Sherri’ Heffner, CT(ASCP), has held clinical and research laboratory positions at private and academic institutions and sales/marketing positions with leading laboratory and technology companies, including Aperio.
Dr. Colgan has over a decade of experience in the digital pathology sector and is focused on how this new and disruptive technology can be leveraged to provide real benefits in both the healthcare and research domains. Prior to working with Leica Biosystems, she came from a research background with a BSc in Biotechnology and a PhD in Vascular Biology from Dublin City University, Ireland.
Colin Doolan has over ten years' experience working with Digital Pathology software solutions for Education, Research and Healthcare markets. He received his BSc in Biotechnology from Dublin City University, Ireland.
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